こんにちは、カズゥです。
皆さんは人生で壁にぶつかったとき、どのように乗り越えていますか?
今回は、わたしがニート生活から抜け出すために心の中で唱え続けてきた、ある特別な言葉を紹介したいと思います。
その言葉とは、「気持ちはそのままにやるべきことをやる」。
この言葉は、一見シンプルですが、実は深い意味を持っています。森田療法という心理療法で使われるこの考え方は、わたしの人生を大きく変えました。
なぜこの言葉が力を持つのか、そしてどのように日常生活に適用できるのか、具体的な例を交えながら詳しく見ていきましょう。
気分本位と目的本位
森田療法には、「気分本位」と「目的本位」という2つの概念があります。
気分本位とは、自分の気分や感情を優先して行動することを指します。一方、目的本位とは、その時々の目的や責任を優先して行動することを意味します。
わたしの経験を例に挙げてみましょう。
以前、息子の学校のPTA行事で人前で話す機会がありました。わたしは人前で話すのが大の苦手で、正直なところ避けたい気持ちでいっぱいでした。ここで気分本位に従うと、どうなるでしょうか?
おそらく、仮病を使って休むなどの方法で、その場から逃げ出すことでしょう。確かに、その瞬間は楽になるかもしれません。しかし、この行動には大きな落とし穴があります。
それは「逃げグセ」がつくことです。一度逃げてしまうと、同じような状況に直面したときに、また逃げてしまう可能性が高くなります。
逃げることは一時的には気分が楽になるかもしれませんが、長期的には後悔や自責の念を生み出します。その後悔は、長い間自分を責め続けることになるのです。
「気持ちはそのままに」の真意
「人前で話すのは嫌だ」という気持ちは、多くの人が経験する自然な感情です。これは、森田療法で言う神経質性格の一つの表れかもしれません。
しかし、ここで重要なのは、この気持ちを無理に取り除こうとしないことです。
なぜでしょうか?
森田療法では、症状や不安に過度に注目してしまう状態を「とらわれ」と呼びます。気分や感情は自然にわき上がってくるもので、完全にコントロールすることは難しいのです。
無理に抑え込もうとすると、かえって「とらわれ」を強めてしまいます。さらに、注意を向けるほど症状が強くなり、症状が強くなるほど注意が向いてしまうという「精神交互作用」が働き、不安がさらに増大してしまうのです。
そこで森田療法では、「あるがまま」の態度を大切にします。これは症状や不安をありのままに受け入れる姿勢のことで、わたしの文脈では「気持ちはそのままに」という考え方に通じます。
では、目的本位ではどのように行動すればいいのでしょうか?
先ほどのPTA行事の例で考えてみましょう。この場合の目的は何でしょうか?それは「人前で原稿を読む」ということです。ここに集中するのです。これは、森田療法で言う「生の欲望」、つまり人間が本来持っている向上心や成長したいという欲求を、建設的な行動に移すことにもつながります。
完璧である必要はありません。声が震えても、少々たどたどしくても構いません。それらの症状や不安を排除しようとするのではなく、そのままにしておく態度を養いながら、与えられた役割を果たすこと、つまり「やるべきことをやる」ということが大切です。
これらをまとめた言葉が「気持ちはそのままにやるべきことをやる」なのです。
この考え方は、森田療法の「あるがまま」の姿勢そのものであり、不安や恐れを抱えながらも前に進む勇気を与えてくれます。つまり、感情をコントロールしようとするのではなく、それを受け入れながら、目的に向かって行動することで、結果的に不安から解放されていくのです。
バランスを取る – グラデーションで考える
「やりたくないことをやらなければならないのか?」という疑問に対する答えは、「やりたくなくても、やらなければならないことはある」です。
しかし、この考え方を極端に解釈すると、「死ぬほど嫌なことでもやらなければならないのか?」という反論が出てくるかもしれません。
ここで重要なのは、物事を白黒つけて考えるのではなく、グラデーションで捉えることです。日本人に多いとされる「ゼロか100か」「白か黒か」という二元論的思考から脱却し、より柔軟な視点を持つことが大切です。
わたしの場合、PTA行事での発表は「70%ぐらいの嫌さ加減」でした。これならなんとか乗り越えられそうだと判断し、引き受けました。もし90%や100%の嫌さ加減だったら、おそらく断っていたでしょう。
ただし、そのような場合でも、仮病を使って休むなどの無責任な行動は避けるべきです。代わりに、PTA担当の先生に正直に相談し、スピーチを辞退させてもらうという適切な方法を選ぶことが大切です。
もちろん、命の危険を感じるような極端な状況では、逃げることも正当な選択肢になります。ここでも、状況に応じたバランスの取れた判断が求められるのです。
職場での実践 – 認知の歪みを乗り越える
「気持ちはそのままにやるべきことをやる」という考え方は、日常生活の様々な場面で活用できます。ここでは、わたしが実際に職場で経験した例を紹介します。
あるとき、上司に質問をしたところ、つっけんどんな返事をされました。以前のわたしなら、「上司に嫌われた」と早合点し、早退して翌日から休んでしまっていたかもしれません。しかし、森田療法の考え方に出会った後のわたしは、違う対応をとりました。
「気持ちはそのままに、やるべきことをやる」を心の中で唱え、その日は頑張って仕事を終えたのです。そして翌日、出社してみると、前日機嫌の悪かった上司はいつも通りの様子でした。
この経験から、わたしは自分の認知の歪みに気づくことができました。機嫌の悪い人を見ると自分が嫌われていると感じてしまう傾向があったのです。しかし、人間誰しも機嫌の良し悪しはあるもので、それが必ずしも自分に対する感情とは限らないのです。
この場合の「気持ち」とは、「上司に嫌われてしまった」という不安でした。その気持ちを無理に消そうとするのではなく、そのままにしつつ、「やるべきこと」である仕事に集中したのです。
この考え方は、「気持ちは変えることはできないが、行動は変えることができる」とも言い換えられます。自分に言い聞かせても心はなかなか言うことを聞きませんが、行動は比較的制御しやすいのです。
日常生活への適用 – 朝の憂鬱を例に
「気持ちはそのままにやるべきことをやる」という考え方は、日常生活の中でも大いに役立ちます。
特に多くの人が経験する「朝の憂鬱」を例に考えてみましょう。
朝起きたとき、多くの人が憂鬱な気分を感じます。布団から出たくない、顔を洗うのも歯を磨くのも面倒くさい、朝食を食べるのも会社や学校に行くのも気が重い…。こういった気分に従うと、最悪の場合、布団の中で二度寝してしまうかもしれません。
しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。
朝の目的は何でしょうか?それは、充実した一日を送るためのスタートを切ることです。朝の憂鬱な気持ちは無くせないかもしれませんが、それはそのままに、朝のやるべきことをやっていくのです。
布団から起き、顔を洗い、歯を磨き、朝食を食べる。これらの行動を取っているうちに、朝一の憂鬱な気分は自然と流れていき、次第に覚醒モードに入っていくでしょう。
この例からわかるように、「気持ちはそのままにやるべきことをやる」という考え方は、日常生活の小さな場面でも大きな効果を発揮します。気分に流されず、目的に向かって行動することで、徐々に前向きな変化を生み出すことができるのです。
現代に生きる我々の「逃げグセ」と勇気の必要性
人類の歴史を振り返ると、我々の祖先が直面していた危険がよくわかります。人間がまだ猿に近かった頃、肉食獣から身を守るために常に周囲に気を配り、襲われてもいつでも逃げることができるよう準備していました。そのため、「逃げる」という選択肢がデフォルトとしてわたしたちの本能に組み込まれているのです。
驚くべきことに、この本能は現代にも引き継がれています。現代人も、油断していると逃げる選択肢を選びがちになります。快適さや安全を求める気持ちは自然なものですが、それに流されすぎると、成長の機会を逃してしまう可能性があります。
ここで重要になってくるのが「勇気」です。
勇気とは、恐れや不安を感じながらも前に進む力です。「気持ちはそのままにやるべきことをやる」という考え方は、まさにこの勇気を実践する方法と言えるでしょう。
わたしたちの感情や気分を否定するのではなく、それを認めつつも、目的に向かって行動する。この小さな勇気の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらします。ニート生活から抜け出すときも、日常生活の小さな壁を乗り越えるときも、この言葉を心に留めておくことで、一歩一歩前進することができるのです。
「気持ちはそのままにやるべきことをやる」。
この言葉が、あなたの人生に新しい可能性をもたらす鍵となることを願っています。恐れや不安を感じたとき、この言葉を思い出し、勇気を持って一歩踏み出してみてください。きっと、新しい扉が開かれることでしょう。